タンス預金は相続税・贈与税の対象になる?国税庁データで見る申告漏れの実態

「タンス預金」とは、銀行に預けず自宅の金庫や引き出しなどで現金のまま保有しておく資産のことです。本記事は国税庁が公表している報道発表資料とタックスアンサー(公式Q&A)のみを情報源とし、タンス預金が相続税・贈与税の申告でどのように扱われるかを、実際の税務調査データとともに整理します。

現金と銀行預金が金融システムの中でどのように扱われるかは、日銀当座預金の役割を解説した記事で確認できます。国際送金を支える銀行間通信の仕組みについては、SWIFTとドル基軸体制の記事をご覧ください。

預貯金だけでなくNISA・iDeCoを含めた年代別の資産保有状況は、新NISA・iDeCoの平均保有額を解説した記事で確認できます。

先に結論を3行で
  • 自宅保管の現金(タンス預金)も、相続開始時点の時価で相続財産に含めて申告する必要がある(預貯金と同じ扱い)
  • 国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」によれば、実地調査9,512件のうち82.3%で申告漏れが判明し、現金・預貯金等は申告漏れ相続財産の約3割(29.1%)を占める主要項目
  • 相続財産に加算される生前贈与の期間は「3年以内」から「7年以内」へ段階的に延長中だが、2026年8月時点ではまだ相続開始前3年以内のまま(7年ルールが完全適用されるのは2031年1月1日以後の相続から)
ご利用にあたっての注意

本記事は国税庁が公表している公式資料に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断や法的助言を行うものではありません。実際の申告要否の判断や税額計算、相続・贈与に関する法律問題については、必ず所轄の税務署または税理士・弁護士など専門家にご相談ください。

そもそも「タンス預金」とは何か

「タンス預金」は法律上の用語ではなく、自宅の金庫やタンス、引き出しなどに現金のまま保管している資産を指す通称です。国税庁のタックスアンサー(コード4102「相続税がかかる場合」)が示す相続税の課税対象には、現金・預貯金の区別なく、被相続人(亡くなった人)が保有していたすべての財産が含まれます。したがって、銀行口座に入っていない自宅保管の現金であっても、相続開始時点(死亡日)の金額で相続財産に計上し、申告する必要があります。

国税庁データで見る、相続税の申告漏れの実態

国税庁は毎年、相続税の実地調査(税務署の職員が自宅などを訪れて行う調査)の結果を報道発表資料として公表しています。令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)の実績は次の通りです。

実地調査件数
9,512件
対前事務年度比111.2%
非違件数(申告漏れ等)
7,826件
非違割合82.3%
重加算税賦課件数
1,065件
賦課割合13.6%
追徴税額合計
824億円
対前事務年度比112.2%
一次情報:国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」(令和7年12月公表)

令和6事務年度においては、実地調査件数は9,512件(対前事務年度比111.2%)、追徴税額合計は824億円(対前事務年度比112.2%)と、いずれも増加しました。

申告漏れが指摘された相続財産の内訳を種類別に見ると、現金・預貯金等は令和6事務年度で29.1%を占め、土地(43.3%)に次いで大きな割合となっています。同資料によれば、過去5年間(令和2〜6事務年度)を通じて現金・預貯金等はおおむね3割前後で推移しており、税務調査で特に注目される財産の一つとなっています。

一次情報:国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」調査事例1

被相続人名義の預金口座から、相続開始前に多額の現金が引き出されていたことから、その使途を解明するため、調査に着手した。(中略)相続人宅の金庫内から多額の現金を発見した。(中略)相続人らは、被相続人の生前、被相続人と共に現金を引き出した上、相続人の自宅金庫内で保管しており、申告が必要であることを認識しながら、相続人の自宅で保管しておけば税務署に容易に把握されることはないだろうという考えの下、税理士にもその存在を隠ぺいし、当該現金を除外して申告したことを認めた。増差課税価格:約2億5千万円 追徴税額:約1億2千万円(重加算税有)

贈与税との関係――暦年贈与110万円と「名義預金」

相続税対策として、生前に家族へ現金を渡す「暦年贈与」を活用するケースがあります。国税庁のタックスアンサー(コード4408「贈与税の計算と税率(暦年課税)」)によれば、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた金額に贈与税がかかります。つまり、年間110万円以内の贈与であれば贈与税はかからず、原則として申告も不要です。

ただし、暦年贈与が税務上「成立」しているとみなされるには、受贈者(もらう側)が贈与の事実を認識し、その財産を自分の意思で管理していることが前提です。名義だけを子や孫にしていても、実際の管理・使用を被相続人が続けていた場合は「名義預金」とみなされ、相続財産に加算される可能性があります。

生前贈与加算「3年→7年」ルールの現在地

相続税には、被相続人が亡くなる前の一定期間内に行われた暦年贈与を相続財産に加算し直す「生前贈与加算」というしくみがあります。国税庁のタックスアンサー(コード4161「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」)によれば、この加算対象期間は令和6年(2024年)1月1日以後の贈与から段階的に「3年以内」から「7年以内」へ延長されています。相続開始日に応じた加算対象期間は次の通りです。

〜2026年12月31日
3年以内
死亡前3年以内の贈与を加算
2027年1月1日〜2030年12月31日
延長期間中
2024年1月1日から死亡日までの贈与を加算
2031年1月1日〜
7年以内
死亡前7年以内の贈与を加算(4〜7年目分は合計100万円まで控除)
Aくん

じゃあ今(2026年8月)はまだ7年ルールになっていないんですか?

その通りです。国税庁のタックスアンサーによると、加算対象期間が7年に完全移行するのは相続開始日が2031年1月1日以後の場合です。2026年8月時点でお亡くなりになった場合は、まだ「相続開始前3年以内」の贈与が対象になります。

生前贈与のもう一つの選択肢「相続時精算課税制度」

国税庁のタックスアンサー(コード4103「相続時精算課税の選択」)によれば、原則60歳以上の父母・祖父母などから18歳以上の子・孫などへ財産を贈与する場合、暦年課税に代えて「相続時精算課税制度」を選択できます。この制度を選ぶと、特定贈与者ごとに年間110万円の基礎控除に加え、累計2,500万円までの特別控除の範囲内であれば贈与税がかかりません(控除を超えた部分は一律20%課税)。ただし、一度選択すると同じ贈与者からの贈与について暦年課税へ戻すことはできず、贈与財産は(基礎控除分を除き)贈与時の価額で相続財産に合算され、相続税として精算される点が暦年課税と異なります。

暦年課税
年110万円非課税
相続開始前3年以内(将来7年以内)の贈与は相続財産に加算
相続時精算課税
年110万円+累計2,500万円まで非課税
選択後は暦年課税に戻せない。贈与財産は(基礎控除分を除き)全額相続財産に合算
一次情報:国税庁タックスアンサー No.4103「相続時精算課税の選択」

相続時精算課税の制度とは、原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。(中略)一度選択すると、その選択に係る贈与者(「特定贈与者」といいます。)から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降すべてこの制度が適用され、「暦年課税」へ変更することはできません。

贈与税の税務調査でも「現金・預貯金」が最多

相続税の補完税と位置づけられる贈与税についても、国税庁は実地調査の状況を公表しています。令和6事務年度は実地調査件数2,778件、追徴税額123億円という実績でした。財産別の非違件数(延件数)を見ると、現金・預貯金等が62.9%(1,754件)と過半数を占め、有価証券14.2%、その他19.1%、土地2.8%、家屋1.0%と続きます。また、贈与税の申告漏れ事案のうち83.4%は無申告事案が占めています。

一次情報:国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」調査事例2(無申告事案)

被相続人名義の預金口座から、相続人やその家族名義の預金口座へ多額の預金が移動していることを把握したため、調査に着手した。(中略)相続人は、相続税の納税を免れる目的で、被相続人の財産を相続税の基礎控除以下になるよう預金の移動を行い、税務署からの照会文書には財産は基礎控除以下であると虚偽の回答を行い、申告を行っていなかったことを認めた。増差課税価格:約7億2千万円 追徴税額:約4億3千万円(重加算税有)

相続税の基礎控除と申告要否

相続税には「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算する基礎控除があります(国税庁タックスアンサー コード4102「相続税がかかる場合」)。正味の遺産額がこの基礎控除額を超えなければ、相続税の申告は不要です。例えば法定相続人が配偶者と子2人の場合、基礎控除額は3,000万円+600万円×3人=4,800万円となります。国税庁は「相続税の申告要否判定コーナー」という無料の公式ツールも提供しており、相続財産の金額などを入力することでおおよその申告要否を確認できます。

タンス預金・生前贈与と正しく付き合うために

STEP
現金も含めて財産を正確に把握する

自宅保管の現金・預貯金・有価証券などをすべて棚卸しし、相続開始時点の評価額を記録しておきます。

STEP
暦年贈与は受贈者自身が管理する

通帳・印鑑を受贈者本人が保管し、贈与のたびに贈与契約書を作成するなど、名義預金と区別できる形にしておきます。

STEP
加算対象期間のルールを確認する

2026年8月時点では相続開始前3年以内の贈与が加算対象です。今後、相続開始時期によって期間が変わる点に注意します。

STEP
判断に迷う場合は公式ツールや専門家に相談する

国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」を利用するか、必要に応じて税理士など専門家に相談します。

よくある質問

タンス預金は本当に税務署にバレますか?

国税庁が公表している実地調査事例の中には、自宅の金庫などに保管されていた現金が発見され、申告漏れとして追徴課税された事案が具体的に紹介されています。詳しくは国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」をご参照ください。

年間110万円以内の贈与なら絶対に申告不要ですか?

暦年課税では基礎控除額110万円以下の贈与であれば贈与税はかからず、原則申告も不要です(国税庁タックスアンサー コード4408)。ただし、実質的に贈与が成立しておらず「名義預金」とみなされた場合は、相続財産に算入される可能性があります。

生前贈与加算は今すぐ7年に延びていますか?

いいえ。国税庁タックスアンサー(コード4161)によれば、加算対象期間が7年に完全移行するのは相続開始日が令和13年(2031年)1月1日以後の場合です。2026年8月時点でお亡くなりになった場合は、引き続き相続開始前3年以内の贈与が対象です。

相続税がかかるかどうかはどこで確認できますか?

国税庁が提供する「相続税の申告要否判定コーナー」で、相続財産の金額などを入力することによりおおよその申告要否を確認できます。正式な判断が必要な場合は税務署または税理士にご相談ください。

相続時精算課税を選ぶとどうなりますか?

年110万円の基礎控除に加え、累計2,500万円までの特別控除の範囲内で贈与税がかからなくなります(国税庁タックスアンサー コード4103)。ただし一度選択すると同じ贈与者からの贈与について暦年課税へ戻すことはできず、贈与財産は基礎控除分を除き相続財産に合算されて相続税として精算されます。

あわせて読みたい

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次